今だからこそ注意が必要な「筋系傷害」-YNコンディショニング2021年6月号-

YNコンディショニングとは、横浜西口(YN)治療院内で刊行しているコンディショニング啓蒙資料です。
お客さまへの情報提供ツールとして、他スタッフも活用できるようにしています。

今回は「今だからこそ注意が必要な筋系傷害」について書きました。

YNコンディショニング2021年6月号
No.13
今だからこそ注意が必要な「筋系傷害」

今だからこそ注意が必要な怪我

コロナ禍での自粛期間を過ごしてきた私たちの身体は、あの頃と比べて変化しているということを念頭に置く必要があります。
外出や運動をする機会が減ることで、体型維持もひと苦労、身体能力も著しく低下している恐れがあります。

特にスポーツにおいては、段階的に運動強度を上げているにも関わらず、例年とは傷害発生状況に違う傾向が出ているという話をちらほら聞きます。

総じて身体のコンディションが良くないときに注意が必要なのが「肉離れ」などの筋系傷害です。

怪我予防における第1歩は、その受傷メカニズムを知ることです。

打撲と肉離れの違い

「肉離れ」のメカニズムについて、「打撲」との違いについて模式図を用いて説明します。
※あくまで模式図はイメージです。

打撲(打ち身)

「まずい、遅刻だ!」

行きかう人々をくぐり抜け、大あわてで改札を目指して走っていく。

ドンッ!!!

すれ違いざまの通行人と思いきり衝突して、私は地面に転んだ

相手とぶつかった太もも、転んで地面にぶつけた膝がジンジンする。

「あ、青あざが出来てる。。」

このように、何かしらの物理的な外力により、筋繊維や血管などの組織が損傷することを「打撲」といいます。

時間が経つと青あざ(内出血)は徐々に吸収されていきますが、深いところでは血腫として残ってしまうことがあり、触れたときにコリコリとした硬結を生じます。

なるべく大きな硬結が出来ないようにするためには、急性期は出血を最小限に抑えるための応急処置、慢性期は血腫がスムーズに吸収されるように血流を促していきます。

損傷の程度や時期に合わせて、冷却や温熱などの物理療法を行うことが良いとされています。
また血腫により可動域が制限されてしまう前に、多少の痛みは我慢しつつ早期からストレッチを行うことも早期回復のカギとなります。

テーピングやバンテージで圧迫を加えることで、触圧刺激により痛みを抑えたり、筋肉の可動範囲を狭めることで痛みを緩和することが可能です。

肉離れ

「まずい、遅刻だ!」

行きかう人々をくぐり抜け、大あわてで改札を目指して走っていく。

ビキッ!!!

すれ違いざまの通行人を交わした瞬間、突如ふくらはぎに痛みを感じた。
まるで後ろからボールをぶつけられたかのような違和感がした。

「あ、やっちゃったかな。。」

このように、急激な加速や減速により筋肉に大きな負荷がかかり、筋膜や筋繊維などが裂けるように損傷することを「肉離れ」といいます。

特に筋肉が伸びながら収縮しようとする遠心性収縮(伸張性収縮)の際に受傷することが多い疾患です。

大きく筋肉が裂けると、その部位は凹んで「陥凹(かんおう)」することがあります。
打撲と同様に、時間が経つと血腫となり、硬結となります。

肉離れは組織の連続性が絶たれている状態なので、受傷後早期にストレッチをすると悪化する恐れがあります。
損傷した部位には、ストレッチやマッサージなどの物理的な刺激は加えずに、走るなどの負荷もなるべく加えないようにします。

軽度の損傷ではテーピングやバンテージで圧迫を加えることで、触圧刺激により痛みを抑えたり、筋肉の可動範囲を狭めることで痛みを緩和することが可能です。
主に患部の保護・血腫拡大の抑制を目的として行います。

ただしテーピングは万能ではなく、体内にある傷を塞ぐことは出来ません。
特にスポーツにおいて、テーピングによる早期復帰にはリスクを伴います

早期復帰を望む場合・安全なリハビリプロトコルを作成する場合は、医療機関にてMRIやエコーによる診察を受けることをお勧めします。
損傷の大きさや部位を特定し、段階を踏みながら活動を再開していく必要があります。

肉離れの応急処置

ここで最近話題となった記事を挙げておきます。素晴らしい研究に感謝致します。

「アイシングは肉離れなどの筋損傷後の再生を遅らせる」
https://www.kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/news/2021_04_23_01.html

これまで肉離れを含む外傷に対する応急処置では、まずはアイシング(RICE処置)をすることがスタンダードとなっていました。

今回挙げた記事では、アイシングが治癒を遅らせるのではないか、という全く正反対の結果が示されています。こういう記事は意外性があるので話題の的となりますが、実はアイシングの是非については以前から議論されているところでもあります。

「アイシングはやめましょう」ということでは全くありません。
今回の記事でも「重症度により選択肢がある」というコメントが書いてあります。

個人的には、アイシング自体を善悪で判断するべきではないと考えています。
用いる状況次第でメリット・デメリットがあり、様々な可能性を考慮した上での判断が必要だと思います。

・正しい知識として、RICE処置の方法を知る
・必要な備品を揃えておく
・怪我した時に相談できる医療機関を決めておく

応急処置において、このような備えをしておくことはとても大切です。
チーム帯同をする上では基本的なことですが、一般的には浸透していないことが多いと思います。

些細な行動が「もしもの時」の明暗の分かれ目になるかもしれません。

肉離れの予防

冒頭でも述べたように、怪我予防における第1歩は受傷メカニズムを知ることです。
偏に「こうすれば予防できる」という方法は存在せず、自分の置かれている状況、身体の状態を踏まえて受傷機転を回避するように対策することが重要です。

例えば、肉離れは「急激な遠心性収縮による負荷」での受傷が多いわけですから、以下のようなことが考えられます。

・筋の柔軟性や筋力を高めて、バランスの偏りを少なくする
・急激な負荷がかからないように段階を踏んで強度を上げていく
・運動前はウォーミングアップを入念に行う
・イレギュラーを想定してシューズや床の状態を把握する
・遠心性の負荷に耐えられるように普段から補強トレーニングを行う

ザッと列挙してみましたが、受傷メカニズムを考慮することで、対策のポイントを見出すことが可能となります。

あとは自分の身体の状態を知り、弱点を克服する。
そして自分が置かれている環境を知り、危険を察知する。

まさに十人十色です。

「言うは易く行うは難し」

肉離れなどの筋系傷害を予防するためには、あらゆる可能性を想定して、多角的に現状を評価しつつ、適宜微調整を加えていかなければなりません。

筋系傷害はスポーツ現場にこそ多い疾患であり、それに近い視点を持っているという意味で、相談するのであればアスレティックトレーナーが一番特化している(していなければならない)と私は考えています。

医科学的な情報に触れて、咀嚼し、ベストなアイデアを提供できるトレーナーでありたい。

常々そう思いつつも、まだまだ足りない。
言うは易く行うは難し。

ひたすらに精進いたします。

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